こんにちは、Dayです!
このブログでは、最新の脳科学論文を一般の方にも楽しめるようにわかりやすくまとめています。
今回は「脳の進化と自閉症の関係を解き明かす最新の科学的発見」についてです。
人間の脳は、他の動物に比べて驚くほど複雑で特別です。言葉を操り、音楽を作り、宇宙の仕組みさえ理解しようとする──そんな力を生み出したのが、人類独自の脳の進化です。
しかし最新研究によると、その「進化の裏側」に思わぬつながりがあることがわかってきました。それは、自閉症の多さです。
「なぜ人間にだけ自閉症が多いのか?」という長年の謎に、脳の進化という大きな視点から迫った研究。この記事では、その内容をわかりやすく解説していきます。
本記事は、以下の研究をもとにしました。
Starr, A. L., & Fraser, H. B. (2025). A general principle of neuronal evolution reveals a human-accelerated neuron type potentially underlying the high prevalence of autism in humans. Molecular Biology and Evolution, 42(9), msaf189.
https://academic.oup.com/mbe/article/42/9/msaf189/8245036?login=false
はじめに ― 人間だけに自閉症が多い理由は?
自閉症(ASD)は世界的に一般的な発達の特徴の一つですが、他の動物にはほとんど見られず、人間に特有であることが報告されています。
なぜ、他の動物ではほとんど報告されないのに、人間社会では比較的多く見られるのでしょうか?
これまで自閉症の原因は「遺伝」と「環境」の組み合わせとして説明されてきました。
しかし最近の研究は、さらに大きなスケール――人類の脳の進化という視点から、この謎を解こうとしています。
人間の脳は、言語や創造性、複雑な社会性を支えるために、他の動物にはないスピードで進化を遂げてきました。その過程で、特定の神経細胞が急速に進化し、結果的に自閉症につながる遺伝的な背景が生まれた可能性があるのです。
この視点は、単に「病気の原因」を探るのではなく、「なぜ人間の脳がここまで特別になれたのか」という問いにも直結します。つまり、自閉症を理解することは、人類そのものを理解する手がかりにもなるのです。
最新研究の概要 ― 脳の進化と自閉症を結ぶ手がかり
最新の国際研究チームによる発表では、人間の脳の進化と自閉症の多さをつなぐ新しい手がかりが見つかりました。
研究者たちが注目したのは、大脳皮質の「L2/3 ITニューロン」と呼ばれる神経細胞です。この細胞は、他の霊長類(チンパンジーやゴリラなど)と比べて、人間では非常に速いスピードで進化していたことがわかりました。
さらに驚くべきことに、この急速な進化の痕跡は、自閉症に関連する遺伝子と重なっていたのです。つまり、人間の脳が特別な機能を獲得していく過程で、同時に自閉症につながる遺伝的な特徴も形づくられていった可能性があります。
この発見は、「自閉症は病気というよりも、人間の脳の進化の副産物なのかもしれない」という新しい視点を提示しています。従来の「遺伝や環境の影響」という説明だけでは捉えきれなかった部分に、進化という大きなスケールから光が当たったのです。
「脳の進化は自閉症だけでなく、他にも人間の特徴に関わっているのでは?」と思う方もいるかもしれません。実際、手の器用さと脳の発達の関係を調べた研究もあります。

なぜこの発見が重要なのか ― 科学としてのおもしろさ
今回の研究がおもしろいのは、「自閉症」という現代的なテーマを、人類の進化という壮大な時間軸と結びつけた点です。
これまで自閉症は、遺伝や環境の影響として説明されることが多くありました。
しかしこの研究は、「人間の脳が進化する過程で、なぜ自閉症の特徴が現れやすくなったのか」という問いを投げかけています。
ここから見えてくるのは、進化の「光と影」です。
- 光の部分:人類は高度な言語、複雑な社会性、創造力といった能力を手に入れた。
- 影の部分:その過程で、神経の多様性が生まれ、自閉症のような特徴を持つ人が増えた。
つまり、自閉症は「人類が知性を手に入れた代償」とも言えるかもしれません。
さらに興味深いのは、この視点が社会の考え方を変える可能性を持っていることです。自閉症を「病気」ではなく、「進化の歴史から生まれた人類の多様性」として捉えることができれば、より広い理解や共生への道が開けるかもしれません。
科学の醍醐味は、こうした「新しい視点」を与えてくれるところにあります。今回の発見は、脳科学だけでなく、私たちが「人間とは何か」を考える上で大きなヒントを投げかけているのです。
進化と自閉症の関係 ― 専門用語なしでやさしく解説
人間の脳は、長い進化の歴史の中で「特別な能力」を身につけてきました。たとえば、言葉で細かいことを伝えたり、芸術を生み出したり、将来を計画したりする力です。こうした力は、他の動物にはあまり見られない、人類ならではのものです。
ところが、その「特別さ」を生む途中で、思わぬ副作用もついてきた可能性があります。
研究によると、人間の脳の中の一部の細胞は、他の動物よりも急速に変化していました。そしてその変化が、自閉症に関連する特徴と重なっていたのです。
イメージするなら、最新のパソコンをつくるときに処理能力は格段に上がるけれど、同時に不具合やエラーが出やすくなるようなもの。脳が進化して賢くなった一方で、その過程で多様な「使い方」や「特性」が生まれ、その一つが自閉症として表れているのかもしれません。
この視点に立つと、自閉症は「進化の失敗」ではなく、人間の脳が特別であることの裏側にある多様性のひとつとして理解できます。
つまり、自閉症を持つ人たちは、人類の進化が生み出した“もうひとつの脳のあり方”を体現しているとも言えるのです。
社会への示唆 ― 自閉症を「多様性」として捉える視点
今回の研究が示すのは、自閉症を単に「障害」として捉えるのではなく、人間の脳の進化が生み出した自然な多様性として理解できるかもしれない、という新しい見方です。
人類の脳は、進化の過程で特別な能力を獲得しました。その副作用として、自閉症のような特性が現れやすくなった可能性があります。もしそうであれば、自閉症は「人類が高度な知性を得たからこそ生まれた特徴」と言えるでしょう。
この視点は、社会のあり方にもつながります。
- 教育現場では、「苦手な部分を直す」のではなく、「得意な部分を伸ばす」支援が重要になるかもしれません。
- 職場や社会生活では、「違いを矯正する」のではなく、「多様な特性を活かす」ことが求められます。
つまり、自閉症を「人間の進化がもたらした多様性のひとつ」として受け止めることで、私たちの社会はもっと柔軟で豊かになるのです。
科学的な発見が、社会の考え方を変え、共生のヒントを与えてくれる。今回の研究は、その一歩となり得るものだと言えるでしょう。
研究の限界と今後の展望
今回の研究は、人間の脳の進化と自閉症の多さを結びつける重要な手がかりを提示しました。
しかし、ここで強調すべきなのは、まだ「仮説の段階」であるという点です。
まず、この研究は「遺伝子や神経細胞の変化」と「自閉症との関連」を統計的に示したものであり、直接的な因果関係を証明したわけではありません。実際にどのようなメカニズムで自閉症が生じるのかは、まだ明確にはわかっていません。
さらに、人間の脳の進化は非常に複雑であり、一つの細胞や遺伝子だけで説明できるものではありません。環境要因や社会的背景も、自閉症の発現に大きく関わっていると考えられます。
それでも、この研究は新しい視点を切り開きました。
今後は、さらに以下の検証が必要になります。
- より大規模な遺伝子データや脳イメージング研究との統合
- 霊長類との比較研究の拡大
- 自閉症の特性を持つ人々の脳活動を直接調べる研究
などによって、仮説がより具体的に検証されていくでしょう。
人間の進化と自閉症をつなぐ糸は、まだ解き始めたばかりです。この先の研究によって、私たちが「人間の脳の特別さ」をどう理解し、「多様な脳」とどう共に生きるかのヒントがさらに深まっていくことが期待されます。
まとめ ― 人間の脳が特別である理由と自閉症のつながり
人間の脳は、言語や創造力、複雑な社会性といった能力を生み出す「特別な進化」を遂げてきました。今回紹介した研究は、その進化の裏側に、自閉症の多さとつながる可能性があることを示しました。
つまり、人間が知性を手に入れる過程で、自閉症という特徴が現れやすくなったのかもしれないということです。これは、自閉症を「進化の副産物」として捉える新しい視点を与えてくれます。
もちろん、まだ仮説の段階であり、これからの研究でさらに確かめられていく必要があります。
しかし、この考え方は、私たちに大切な気づきを与えてくれます。それは、自閉症は人間の脳の多様性の一部であり、人類が特別であることの証でもあるということです。
科学はときに、病気や障害を「欠けたもの」としてではなく、「多様性」として見直す視点をもたらしてくれます。今回の発見も、私たちが「人間らしさ」をどう理解し、どのように共に生きていくかを考えるきっかけになるでしょう。

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