こんにちは、Dayです!
このブログでは、最新の脳科学論文を一般の方にも楽しめるようにわかりやすくまとめています。
今回のテーマは「親の接し方が子どもの脳の働きをどう変えるのか」についてです。
近年の研究では、子どもの行動問題や素行の乱れに対して、薬や専門的な治療だけでなく、家庭での“親の関わり方”が大きな影響を与えることが注目されています。とくに、暖かく一貫したペアレンティングは、単に子どもの反抗や問題行動を減らすだけではありません。なんと、「やる気」や「報酬の感じ方」をつかさどる脳の報酬系そのものを改善する可能性があると報告されたのです。
これは「しつけ」や「親子のコミュニケーション」が、子どもの脳の発達やモチベーションの源泉にまで関わっていることを示す画期的な発見です。
本記事では、最新の脳科学研究がどのようにして“親の接し方が脳を変える”と証明したのかをわかりやすく解説し、さらに日常の子育てに活かせるヒントを紹介します。
本記事は、以下の研究をもとにしました。
Sethi, A., O’Brien, S., Blair, J., Viding, E., Shani, D., Robinson, O., Mehta, M., Ecker, C., Petrinovic, M.-M., Catani, M., Blackwood, N., Doolan, M., Murphy, D. G. M., Scott, S., & Craig, M. C. (2025). Successful evidence-based parenting programs are associated with brain changes and improved reward processing in boys with conduct problems. Biological Psychiatry. Advance online publication.
https://doi.org/10.1016/j.biopsych.2025.06.008
なぜ「親の接し方」が子どもの脳に影響するのか?
私たちの脳は、単に遺伝だけで決まるものではありません。日々の経験や人との関わりによって、神経のつながりが強まったり弱まったりしながら発達していきます。特に子ども期は「脳の可塑性(かそせい)」が高く、親からの言葉や態度が脳の働き方そのものを形づくる大切な時期です。
なかでも重要なのが「報酬系」と呼ばれる脳の仕組みです。これは「うれしい!」「もっとやりたい!」と感じるときに働く神経ネットワークで、やる気や学習、社会性の発達に欠かせません。
親の接し方が温かく一貫していれば、子どもは安心して行動し、褒められることで報酬系が活発に働きます。その結果、「よい行動は続けたい」という気持ちが自然に強まるのです。
逆に、否定的で一貫性のない関わり方が続くと、子どもは「どうせ頑張っても無駄だ」と感じ、報酬系が十分に働かなくなる恐れがあります。すると、やる気が出にくくなったり、反抗や問題行動につながることがあります。
つまり、「親の接し方」は子どもの心だけでなく、脳の神経回路に直接影響する“環境要因”なのです。科学的に見ても、家庭での小さな声かけや態度が、子どもの脳の発達に長期的な影響を与える可能性があるとわかってきています。
最新研究が明らかにした驚きの結果
今回紹介する最新研究では、素行問題を抱える男の子たちを対象に、エビデンスに基づくペアレンティング・プログラムが実施されました。
このプログラムは「暖かく」「一貫性のある」接し方を親が学び、家庭で実践していくものです。
結果は驚くべきものでした。プログラムによって子どもの行動が改善しただけでなく、脳の“報酬系”と呼ばれる神経回路の働きも向上していたのです。具体的には、「やる気」や「ごほうびの価値づけ」に関わる前頭前野(vmPFC)や島皮質といった領域で、活動が改善していることが確認されました。
つまり、「親の接し方を変える」→「子どもの行動が良くなる」→「さらに脳の働きまで改善する」という三段階のポジティブな連鎖が科学的に証明されたのです。
これまでペアレンティング・プログラムは「行動がよくなる」ことは知られていましたが、脳レベルの変化まで伴うことが明らかになったのは大きな一歩です。この発見は、家庭教育が単なるしつけにとどまらず、子どもの脳の発達そのものを後押しすることを示しています。
科学的におもしろいポイント
「しつけ」が脳の仕組みに届く
これまで「親の関わり方が子どもの行動に影響する」ことは経験的に知られていました。しかし今回の研究は、その効果が脳の報酬システムという具体的な神経回路にまで及ぶことを実証しました。まさに「育て方が脳を形づくる」という科学的証拠です。
遺伝だけではなく環境が脳を変える
「気質は生まれつき」と考えられがちですが、親の接し方という環境的な要因が神経活動を調整できることが示されました。これは「子どもは変われる」という希望を裏づける大きな発見です。
家庭教育と脳科学がつながった瞬間
これまで脳科学は難解で実生活から遠い分野のように思われがちでした。ところが今回の成果は、「家庭での小さな声かけや態度」が「脳の活動パターン」に反映されることを見せてくれます。身近な子育てと最先端の神経科学が直接つながった点が非常にユニークです。
科学で“やる気”を説明できる
「やる気」は目に見えず、曖昧なものと思われがちです。しかし脳の報酬系を測ることで、「なぜ褒められるとやる気が出るのか」「なぜ一貫した対応が安心感を生むのか」を科学の言葉で説明できるようになったのです。
子育てに役立つ3つのヒント
1. 暖かくポジティブな声かけを増やす
子どもは褒められることで「やる気の脳(報酬系)」が活発に働きます。小さな成功や努力を見つけたら、すぐに言葉で伝えましょう。
「がんばったね」「手伝ってくれて助かったよ」といったシンプルな一言が、脳にポジティブな刺激を与え、よい行動を続ける力になります。
2. 一貫したルールと予測可能な環境をつくる
その日によって態度やルールが変わると、子どもは混乱し、安心できません。逆に、一貫性のある関わり方は「次にどうなるかがわかる」安心感を与え、脳の安定した学習につながります。
「約束を守ったらご褒美」「ルールを破ったらこうなる」という結果をブレずに伝えることが大切です。
3. 小さな成功を“ごほうび”に変える
ごほうびはお金やモノでなくても大丈夫。笑顔やハイタッチ、抱っこや「ありがとう」という言葉でも、脳は“報酬”として受け取ります。
小さな成功をその都度「ごほうび化」することで、子どもは「もっと頑張りたい!」という気持ちを自然に持てるようになります。
こうした工夫はどれも特別な道具やお金がなくても実践できます。最新研究が示すように、日常のちょっとした声かけや態度の積み重ねが、子どもの行動と脳の働きを良い方向に育てる力になるのです。
研究の限界と今後の課題
もちろん、この研究にもいくつかの限界があります。
まず、対象が男の子に限られていた点です。今回の結果が女の子にも同じように当てはまるのかは、まだはっきりしていません。性別や年齢によって、親の関わり方が脳に与える影響は異なる可能性があります。
次に、研究期間が限られていたことです。プログラム後に脳の働きが改善したことは示されましたが、その効果が長期的に続くのか、思春期や大人になってからも残るのかはまだわかっていません。
さらに、どの要素が最も効果的だったのかは明確にできていません。「褒めること」「一貫性のある対応」「安心感を与えること」など、複数の要素が組み合わさっていますが、その中でどれが脳の変化に強く関わったのかを切り分ける必要があります。
最後に、実験的な課題と日常生活とのギャップも考えられます。研究で測定された“報酬処理の改善”が、学校生活や人間関係にどのように反映されるのかを追跡することが今後の課題です。
今後は、より幅広い年齢や性別を対象にした研究や、数年単位での追跡調査が進むことで、親の関わり方が子どもの脳に与える影響をより確実に理解できるでしょう。
まとめ ― 親の接し方は子どもの“やる気の脳”を育てる
今回紹介した最新研究は、親の関わり方が子どもの脳の報酬システムにまで影響することを示しました。
「褒める」「一貫性を持つ」「安心感を与える」といった日常の小さな工夫が、子どもの行動改善だけでなく、“やる気”や“ごほうびを感じる力”を支える脳の働きを強めることにつながるのです。
これは単に学術的なおもしろさにとどまらず、子育てに取り組む私たちにとって大きな希望でもあります。
「子どもの行動は変えられる」「脳の仕組みも環境で育てられる」――そんな科学的根拠が得られたことで、毎日の声かけや接し方の大切さを改めて実感できます。
つまり、親の接し方は未来をつくる投資です。今日の小さな“ポジティブな関わり”が、明日の子どもの自信ややる気、そして脳の成長を支えていきます。

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