こんにちは、Dayです!
このブログでは、最新の脳科学論文を一般の方にも楽しめるようにわかりやすくまとめています。
今回のテーマは「音楽を聴くときに変化する“まばたき”と脳の集中力アップの仕組み」についてです。
音楽を聴くとリラックスできたり、仕事や勉強に集中しやすくなったりすることがあります。実はその効果を示すカギは、私たちが無意識に行っている「まばたき」に隠されています。
まばたきのタイミングを調べることで、音楽が脳の注意力や集中力にどのように影響を与えるかが分かってきたのです。
最新の脳科学研究では、クラシック音楽のような穏やかな曲とダイナミックな曲とで、まばたきのリズムが異なり、それが注意力の働き方に違いを生むことが明らかになりました。
特に高齢者にとっては、音楽を選ぶことで「集中力を保つ」新しい方法になる可能性も示されています。
この記事では、日常の「音楽と集中力」の関係を科学的に解説しながら、生活や勉強・仕事に活かせるヒントを紹介していきます。
本記事は、以下の研究をもとにしました。
Brannick, S. F., & LaCroix, A. N. (2025). Blinking indexes dynamic attending during and after music listening. Scientific Reports, 15, 12200.
https://doi.org/10.1038/s41598-025-12200-6
音楽と集中力の関係 ― なぜ気分や作業効率が変わるのか?
私たちは勉強や仕事をするときに「音楽を聴くと集中できる」と感じることがあります。逆に、静かな環境でないと作業がはかどらないという人もいます。ではなぜ、音楽は人によって集中力や気分にこれほど影響するのでしょうか。
科学的に見ると、音楽には脳の覚醒度や注意のリズムをコントロールする力があります。テンポの速い音楽は心拍数や脳の活動を高め、エネルギーややる気を引き出す効果があるとされます。一方で、テンポがゆるやかで穏やかな音楽は、リラックス状態を作り出し、不安や緊張を和らげる働きがあります。
さらに、音楽のリズムやメロディーは「次に何が来るか」を脳に予測させる性質を持っています。
この“予測”が、注意力を一定のリズムで切り替える手助けをし、結果として集中しやすい状態を生み出すのです。
つまり、音楽は単なる「BGM」ではなく、脳の働き方を左右する刺激なのです。気分が高まったり落ち着いたり、作業効率が変わるのは偶然ではなく、脳科学的な根拠があるといえます。
まばたきは脳の注意力のサイン
私たちは1分間におよそ15〜20回もまばたきをしています。しかし、その多くは無意識に行われており、普段はほとんど気にしていません。
ところが近年の研究で、この“まばたき”が脳の注意力の状態を映し出すサインであることが分かってきました。
例えば、集中して本を読んでいるときや映画のクライマックスに見入っているとき、自然とまばたきの回数は減ります。逆に気持ちが緩んでいるときや、周りの情報を積極的に取り込もうとしていないときには、まばたきの回数は増える傾向にあります。
つまり、まばたきは単なる目の乾燥防止のためだけではなく、「脳が今どのくらい注意を払っているか」を表す生理的な指標でもあるのです。
今回紹介する研究では、この“まばたき”を手がかりに、音楽を聴いたときに人の注意がどのように変化するのかが調べられました。ここから見えてきたのは、音楽と脳の驚くべき関係性です。
最新研究の概要 ― 音楽とまばたきの不思議な関係
今回紹介するのは、アメリカの研究チームが行った最新の脳科学研究です。対象となったのは50歳から80歳代までの中高年の参加者たち。
研究者たちは、彼らに「音楽を聴いている間」と「聴いた後」で、まばたきの回数やタイミングがどのように変わるのかを調べました。
実験では、次の3つの条件で10分間過ごしてもらいました。
- ダイナミックな曲(速くて変化が大きいクラシック曲)
- 穏やかな曲(テンポがゆっくりで安定したクラシック曲)
- 無音状態
その後、参加者は「注意力テスト(ANT)」を受けました。これは、画面に映る矢印やマークを見て、できるだけ早く反応するテストで、注意力の3つの要素(アラート・方向づけ・実行制御)を測定できるものです。
さらに、研究者たちは音楽そのものの特徴も詳しく解析しました。特に「音の周波数の変化(spectral novelty)」という指標に注目し、音楽のダイナミックな変化とまばたきがどのようにリンクしているかを調べたのです。
こうして「音楽の種類」と「まばたきのリズム」、「注意力テストの結果」を組み合わせることで、音楽が脳の集中力にどう影響するかが明らかになりました。
研究でわかったこと ― 音楽が集中力をどう変える?
実験の結果、音楽の種類によって脳の集中力の働き方が大きく変わることが明らかになりました。
まず、ダイナミックな曲(速くて変化が大きい音楽)を聴いたときには、音楽の変化に合わせてまばたきが増える傾向が見られました。これは「次に何か起こりそうだ」と脳が素早く注意を切り替えているサインだと考えられます。
つまり、激しい音楽は新しい刺激に反応しやすいモードを作り出すのです。
一方、穏やかな曲(テンポがゆっくりで安定した音楽)では、音の変化に合わせてまばたきが減少するパターンが見られました。これは注意が安定して続いていることを意味し、混乱する状況でも冷静に対応できる状態を作り出すと考えられます。
つまり、穏やかな音楽は集中を持続させるモードを助けるのです。
さらに、無音状態と比べると、音楽を聴いた後の方が「注意力テスト」でより効率的に反応できる場面が多くありました。これは、音楽が単なる気分転換ではなく、実際に脳の働きを変えていることを示しています。
要するに、
- 激しい音楽 → 新しい刺激に素早く対応したいときに有効
- 穏やかな音楽 → 集中を長く保ちたいときに有効
という“音楽の使い分け”ができる可能性があるのです。
科学としてのおもしろさ ― 音楽で脳のリズムをコントロールできる?
今回の研究のユニークな点は、「まばたき」という身近な行動から脳の働きを読み取れるところにあります。普段は意識していない目の動きが、実は「脳が今どれくらい集中しているか」を示すサインになっているのです。
さらに面白いのは、音楽がその「まばたきのリズム」に影響を与えていたこと。これは、音楽が脳の注意のリズムを引き込む(エントレインメント)役割を持っていることを意味します。まるで脳が音楽のテンポや変化に“同調”し、自分の集中力を調整しているかのようです。
また、曲の種類によって脳の反応が違った点も重要です。激しい曲では「新しいことにすぐ反応する脳」に、穏やかな曲では「長く集中を保てる脳」に切り替わりました。
つまり、音楽を選ぶことで、自分の脳の働き方をある程度コントロールできる可能性があるのです。
このように、まばたきと音楽の研究は単なる「音楽心理学」を超えて、脳のリズムそのものを操る手がかりを与えてくれます。これは将来的に、学習・仕事・高齢者の認知機能のサポートなど、幅広い分野に応用できる可能性を秘めています。
日常生活へのヒント ― 勉強や仕事におすすめの音楽は?
研究結果から見えてきたのは、音楽の種類によって集中力の質が変わるということです。
これは日常生活にも応用できます。
- 新しいアイデアを考えたいときや、気分を切り替えたいとき
→ テンポが速く、リズムや変化の多い音楽(例:アップテンポのクラシック、映画音楽、ポップス)がおすすめです。脳を刺激して、新しいことに素早く反応できる状態を作りやすくなります。 - じっくりと作業を続けたいときや、集中を長時間キープしたいとき
→ ゆったりとしたテンポで、メロディーが安定している音楽(例:ピアノや弦楽器の静かなクラシック、環境音楽、アンビエント)が効果的です。気持ちを落ち着け、注意を持続させるのに役立ちます。 - リラックスして心を整えたいとき
→ 波の音や雨の音など、自然のサウンドもおすすめ。今回の研究の枠外ですが、心拍や呼吸を安定させ、ストレスをやわらげる効果が報告されています。
また、本研究は中高年の参加者が対象でしたが、集中力が必要な学生やビジネスパーソンにとっても参考になります。
自分の目的に合わせて音楽を選ぶことで、「脳に最適な環境」を自分でデザインすることができるのです。
研究の限界と今後の課題
今回の研究はとても興味深い結果を示しましたが、いくつかの限界もあります。
まず、実験で使われた音楽はクラシックの2曲だけでした。音楽にはポップスやジャズ、ロックなどさまざまなジャンルがあり、人によって好みも大きく異なります。好みの音楽かどうかが集中力に影響する可能性もあり、この点はまだ明らかになっていません。
次に、研究対象が50歳以上の中高年層に限られていたことです。若い世代や子どもでも同じような効果が見られるのかは、今後の検証が必要です。
さらに、音楽を聴いたあとの効果がどのくらい持続するかもわかっていません。短時間の集中には役立つかもしれませんが、長時間の学習や仕事に効果が続くのかは、追加の研究が必要です。
今後は、より多様な音楽ジャンルや年齢層を対象にした研究が進めば、「状況や目的に応じた音楽の処方箋」のような形で、勉強や仕事、さらには高齢者の認知機能サポートに活かせる可能性があります。
まとめ ― 音楽とまばたきが教えてくれる脳の秘密
今回紹介した研究からわかったのは、音楽がまばたきのリズムを通じて脳の注意力に影響を与えるということです。
- 激しい音楽は「新しい刺激にすぐ反応する脳」をつくり、
- 穏やかな音楽は「集中を長く続けられる脳」を助ける。
そして、この違いは無意識のうちに行っている「まばたき」というシンプルな行動に表れていました。
つまり、音楽はただのBGMではなく、脳の働きを変えるツールだということです。日常生活で音楽をうまく使えば、勉強や仕事の効率アップ、さらには高齢者の集中力の維持にも役立つかもしれません。
「今日はどんな音楽を聴こうか」と選ぶことが、その日の脳の調子を整える小さな工夫になる――そんな視点で音楽を楽しんでみると、日々の暮らしが少し豊かになるはずです。

コメント