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運動で出る乳酸が脳に効く!BDNFとの意外な関係とは?

こんにちは、Dayです!
このブログでは、最新の脳科学論文を一般の方にも楽しめるようにわかりやすくまとめています。

今回のテーマは運動で生まれる乳酸が脳を元気にする仕組みについてです。

運動は体だけでなく脳にも良い影響を与えることが知られていますが、その秘密のひとつが「乳酸」と呼ばれる物質です。

これまで乳酸は“疲労物質”と考えられてきましたが、最新の研究では、脳の神経栄養因子であるBDNF(脳由来神経栄養因子)と深く関係していることが明らかになってきました。

この記事では、運動によって生まれる乳酸がどのようにBDNFとつながり、脳の健康や記憶・学習に役立つのかをわかりやすく解説します。

本記事は、以下の研究をもとにしました
Röja, J., Ameller, N. F., Grip, J., Apró, W., & Moberg, M. (2025). Lactate infusion increases circulating pro-brain-derived neurotrophic factor levels in humans. Frontiers in Cellular Neuroscience, 19, 1644843.
https://dx.doi.org/10.3389/fncel.2025.1644843

目次

運動と脳の意外なつながり

「運動すると頭がすっきりする」「勉強の前に体を動かすと集中できる」――こんな経験をしたことはありませんか?実はこれは気のせいではなく、科学的にも裏付けがある現象です。

近年の研究で、運動は単に筋肉や心肺機能を鍛えるだけでなく、脳の働きそのものを高める効果があることが明らかになってきました。その中心的な役割を担うのが「BDNF(脳由来神経栄養因子)」というタンパク質です。BDNFは脳の神経細胞の成長や再生を助け、記憶力や学習能力を支える“脳の栄養”のような存在といえます。

つまり、運動は体を鍛えると同時に、脳のパフォーマンスを引き出す“天然のサプリメント”の役割を果たしているのです。

乳酸は本当に“疲労物質”なのか?

「乳酸=筋肉痛の原因」というイメージを持っている方は多いのではないでしょうか。長い間、乳酸は「運動するとたまって疲労を引き起こす物質」と考えられてきました。しかし近年の研究は、この常識を大きく覆しつつあります。

実際には、乳酸は体のエネルギー代謝に欠かせない存在であり、筋肉や心臓、さらには脳のエネルギー源としても利用されることがわかってきました。

さらに、乳酸は単なるエネルギー供給だけでなく、「情報を伝えるシグナル物質」としても働き、脳の健康や機能に影響を与える可能性があるのです。

このように、「疲労物質」という従来のイメージは誤解に近く、むしろ乳酸は運動と脳をつなぐ重要なメッセンジャーとして注目され始めています。

最新研究の発見 ― 乳酸がプロBDNFを増やす

では実際に、乳酸が脳にどう影響するのかを調べた最新研究をご紹介します。スウェーデンの研究チームは、運動をせずに人に乳酸を点滴で投与し、その後の血液中の変化を観察しました。

その結果、脳の栄養因子BDNFの“前駆体”である プロBDNF(proBDNF) が有意に増加することがわかったのです。一方で、完成形である 成熟型BDNF(mBDNF) の濃度には変化が見られませんでした。

このことはつまり、乳酸が「BDNFを直接増やす」のではなく、BDNFを作るための材料を増やすスイッチとして働いている可能性を示しています。

運動で乳酸が生まれると、それが脳にシグナルを送り、「もっとBDNFを作ろう」という準備が始まる――そんな仕組みが浮かび上がってきたのです。

脳の健康にどう役立つのか?

BDNFは「脳の肥料」とも呼ばれるほど、神経細胞の成長や新しいネットワークの形成に欠かせない存在です。今回の研究で明らかになったように、乳酸がプロBDNFを増やすことで、脳がBDNFを作り出す準備を整える可能性が示されました。

これは、私たちの生活にとって大きな意味を持ちます。

  • 学習や記憶のサポート
     BDNFはシナプスのつながりを強化し、新しい情報を記憶する力を高めます。運動によって乳酸が生まれることは、勉強や仕事の効率アップにつながるかもしれません。
  • メンタルヘルスへの効果
     BDNFの低下はうつ病や不安障害と関連があることが知られています。乳酸を介してBDNFの材料が増えることは、気分の改善やストレス耐性にも関わる可能性があります。
  • 認知症予防への期待
     加齢とともにBDNFは減少していきます。乳酸がその前駆体を増やす働きを持つなら、運動がアルツハイマー病などの認知症予防に役立つ理由の一つを説明できるかもしれません。

つまり、運動で生まれる乳酸は「疲れの原因」どころか、脳の健康を守る頼もしい味方になり得るのです。

まとめ|運動が脳に良い理由を科学で理解する

これまで「乳酸=疲労物質」というイメージが強くありましたが、最新研究はその常識を覆しつつあります。乳酸は、脳の栄養因子であるBDNFの“材料(プロBDNF)”を増やす働きを持ち、学習・記憶やメンタルヘルス、さらには認知症予防にもつながる可能性があることが示されました。

つまり、運動によって体だけでなく脳も元気になるのは、乳酸が脳の健康を支えるシグナルとして働いているからかもしれません。

日常生活に取り入れられるウォーキングやジョギングといった有酸素運動でも乳酸は発生します。
特別なトレーニングでなくても、「少し息が上がる程度の運動」を習慣にすることが、脳を長く健康に保つためのカギになるでしょう。

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この記事を書いた人

脳科学・神経科学を専門とする大学研究者。日々の研究活動で触れる最新の知見を、医療従事者や研究者だけでなく一般の方にも伝わりやすい形で紹介しています。このブログでは、PubMedなどから注目の論文をピックアップし、日本語で要約・解説します。

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